大谷翔平選手がアメリカで設立した「ファミリー財団」とは?
- takahashikazuya
- 11月22日
- 読了時間: 4分
—— MLB選手が財団をつくる理由と、アメリカの寄付制度の仕組み
2025年11月、大谷翔平選手がアメリカで「Shohei Ohtani Family Foundation」を設立したことを公表しました。
公表されているミッションは、
・子どもたちが活動的で健康に過ごせる環境の支援・救助や保護を必要とする動物のケア活動の支援
という二本柱です。
この「ファミリー財団(Family Foundation)」という形式は、アメリカでは非常に一般的で、特にスポーツ選手の慈善活動では標準的な枠組みです。
ここでは、どのような仕組みで運営されるのか、そしてなぜ多くのMLB選手が財団を作るのかを、すべて事実に基づいて整理します。
■ アメリカの「ファミリー財団」は税法上の制度
アメリカの非営利団体は、税法(Internal Revenue Code)で
・Public Charity
・Private Foundation
のいずれかに分類されます。
Family Foundation という呼称は、一般に Private Foundation を指します。Private Foundation は、特定の個人や家族が拠出して運営する非営利団体のことです。
大谷選手の財団も、この Private Foundation 型であると考えられます(正式な分類は IRS 登録後に確定)。
■ MLB選手はなぜ財団を作るのか
根拠のある理由は次のとおりです。
まず、アメリカでは寄付文化が発達しており、慈善活動を行うためには「寄付の受け皿となる非営利団体」が必要です。そのため、トップ選手は自分の価値観に沿った慈善活動を継続するために財団を設立します。
次に、スポンサー企業やファンからの寄付を受けやすくなります。アメリカの非営利団体は「Form 990」または「Form 990-PF」という財務報告書を毎年公開することが義務づけられているため、高い透明性が保たれ、寄付先として信頼されやすくなります。
そして、財団を持つことで活動を “個人のブランド” として長期的に継続できます。アメリカでは、引退後も家族で財団を運営し続ける選手が多くいます。
実際、Clayton Kershaw、Mookie Betts、Freddie Freeman、Albert Pujols、Aaron Judge など、多くのMLB選手が非営利団体(Private FoundationやPublic Charity)を設立しています。いずれも IRS に登録され、財務情報は公開されています。
■ 個人が自分の財団へ寄付した金額は、アメリカでは控除できる
ここがアメリカ制度の大きなポイントです。
アメリカ連邦税法(Internal Revenue Code §170)では、個人が Private Foundation に寄付した金額は「寄付金控除」の対象になります。
控除の上限は、個人の場合「AGI(Adjusted Gross Income)の30%」です。これは、Public Charity(60%)よりは低いものの、明確に法律で認められた控除制度です。
したがって、高額所得者が自らの財団に寄付することで、課税所得を減らす効果は確かに存在します。
ただし、ここで誤解してはいけないのが次の点です。
■ 財団に入れた資金は「もう自分のものではない」
財団に寄付した瞬間、その資金は個人から完全に切り離されます。
Private Foundation は、自分または家族に利益をもたらす使い方をしてはならず、「self-dealing(自己取引)」として税法上厳しく禁止されています(Internal Revenue Code §4941)。
つまり、“財団にお金を移して後で自分が使える”という誤解は完全に間違いです。
寄付したお金は、100%慈善目的に使われなければなりません。
■ 毎年「資産の5%以上」を慈善活動に使わないといけない
Private Foundation には、毎年一定額を慈善目的に支出する義務があります。これは minimum distribution requirement と呼ばれる制度で、
・Internal Revenue Code §4942
で定められています。
通常は、保有資産の約5%を毎年慈善活動に使う必要があります。使わないと罰金や追加課税が発生します。
■ Private Foundation の財務情報は毎年公開される
Private Foundation は、毎年 IRS に Form 990-PF を提出し、その内容がすべて公開されます(IRC §6104)。
公開されるのは、
・資産・収益(寄付金、投資収益など)・支出・助成先・役員報酬
などです。
寄付者の名前だけは非公開ですが、それ以外は詳細に誰でも閲覧できます。
■ まとめ
大谷翔平選手の「Shohei Ohtani Family Foundation」は、アメリカの非営利制度の中で広く認知されている Private Foundation(ファミリー財団) として設立されたものです。
アメリカでは、多くのMLB選手が同様の財団を持ち、子ども・教育・医療・動物保護などの慈善活動を行っています。これらの財団は IRS によって制度化され、毎年の財務公開、支出義務、寄付金控除など、厳密なルールのもとで運営されます。
特に重要なのは、個人が自分の財団に寄付した金額は寄付金控除の対象になるものの、財団に入れたお金は完全に自分から切り離され、すべて慈善目的に使わなければならないという点です。
今後、大谷選手の財団がどのようなプロジェクトに取り組んでいくのか、Form 990-PF の公開を含め、活動が明らかになっていくことが期待されます。


コメント